お侍様 小劇場

    “宵のしじまに…” (お侍 番外編 73)
 


秋の後半は11月の末に訪のうた三連休。
だが、まずはの初日も出勤予定だった勘兵衛だったものだから、
家族総出でというよな予定も特にないままの島田さんチだったりし。
いつもの休日同様、
3日とも家にいて
七郎次のお手伝いをするつもりでいてくれたらしい久蔵へ。
だったら少しばかり足を延ばして、
買い物がてらにドライブでもしましょうかと七郎次が持ちかけた。
その際に、
先日、車上荒らしに遭って弄られたらしい車も帰って来たことだしと、
要らんことを言ってしまって。
何それ何のお話? 俺だけ聞いてませんけれどと。
すがられた挙句に全部白状させられたという、
このごろどっちが過保護なやらな傾向へ移りつつある母子問答、
微笑ましくも繰り広げていたのを聞きつつ、
会社へと出掛けて行った勘兵衛だったが。

 「久蔵はもう寝たのか?」

そもそも、役員級の役づき幹部らが、
ゴルフだレセプションだセレモニーだに招待されていての、
連絡を密に取らねばならなくてという管制塔になるための出勤。
しかもしかも、
何か起きてから押っ取り刀で対策を取るのでは遅いからという、
及び腰で立ち上げられた態勢じゃあなく。
出会いの最中に何かしら拾った“勘のいい”役員から、
取引先の予定や好みを突然聞かれても瞬時に応対出来るよにという、
至って“攻め”色のアシスト態勢。
卑屈に構えず、とはいえ水も洩らさずの周到に。
そういえば、先日
某国の提携先が御社の評判を高く買っておられましたが…などと、
些細ながらも心くすぐるお話を吹っかけたり。
例年だったら省庁に懇意な某社が請け負っていた随意入札のアレ、
今年はほら政権も変わったことだしということか、
企画持ち込みの自由入札へ変わるらしいって話ですが…などなどと。
根も葉もないならよくある話、
だがだが、こちらの○○専務のお話しくださる“風聞”は、
どういうことだか予言のようにびしばしと当たると、
業界で評判になっているほどなのも。
タネを明かせば室長殿の、情報管理と活躍のお陰と。
業績躍進へ途轍もない影響を及ぼしている代物なだけに。
顔合わせ、顔つなぎのためを兼ねた会合が重なる休日や祭日ほど、
忙しくも張り詰めていなさる勤務だそうで。
それからやっと解放されて、しかも明日は、

 「明日は予定が無うなっての。」
 「え? あ、それでは…。」

一日 体が空いたので、出掛けるというなら付き合えるぞと、
スーツからの着替えを手伝う七郎次へと告げれば。
ご健勝なればこその、
お仕事も充実し活躍しておいでの御主ではあれど。
それがためにか、
週に1度も休暇のない日々に忙殺されておいででもあるお人。
別なお顔からの引き合い、
そちらの方こそ集中の要る危険な務めも抱えておいでで、
出来れば心からの休息、ゆっくり取ってほしいし、それに。
他愛ない会話や、いいえいいえ、
ただ傍らに置いていただくだけでもいいから、
御主を癒す役回り、この自分へ務めさせてほしくもあって。

 「明日はと言っても、まだ何も予定は考えておりませぬ。」

お天気もはっきりしないとのことなので、
それならいっそ、家に居て
パンやパイでも一から焼いてみましょうかなんて。
特価だった小麦粉とバターをたくさん買ったんですけれど、と。
そんな微笑ましい心積もりを聞かせてくれる恋女房殿。
無論のこと、そんなお喋りと並行し、
居間へと移りつつの手際よく、勘兵衛への晩酌の用意をし。
今宵は少し冷えるのでと、程よくつけた熱燗を、
さぁさと酌して差し上げているところ。
家事全般、何をさせても卒のない彼なのは知っていたが、

 「そのようなものまで、作れるようになったのだの。」

思えば他の家事だとて、
此処に来てから身につけたもの。
実家には料理も掃除も役目をおびたお人がいたからと、
こちらへ来た当初は
それこそみそ汁1つもおっかなびっくりで作っていたものが。
今や、それは丁寧な手際で大概のメニューがこなせる腕前にまで、
成長している七郎次でもあって。
大したものよと しみじみ感心してくださる御主のお言葉へ、
何を仰せか、今時は捏ねるだけでいいよな素材も、
子供にも分かるような丁寧なレシピも出回っておりますようと。
大したことはないないと、
奥ゆかしくも謙遜しつつ、胸の前にて振った白い手を、
目許たわめた御主の大ぶりな手が、
そりゃああっさりと捕まえる。

 「儂には逆立ちしたとて出来ぬこと、片っ端から物にしおって。」

憎まれにしては、甘く低められたお声は優しくて。

 「今ではとうとう、
  お主がおらねば立ちゆかぬ身にまでなってしもうた。」

どうしてくれると、だが、睨むではなくの。
暖かな笑みをたたえて細められた目許の、
何と蠱惑に満ちておいでか。
しかもそんなお言いようをされたそのまま。
淑女の御手もかくあらん、
捕まえた白い手をそおと掲げての口許へと寄せ、
指先へと恭しい接吻を捧げれば。

 「あ…。///////」

案外ロマンチストだなと、お笑いになるな、諸姉諸兄。
信頼しきってた頼もしさと温みとで導かれての、
なのに日頃されつけぬところへの接吻は。
喩えようのない幻惑とともに、
たちまちという間の潜熱を招くから不思議で。
これがまだ、昨年の今頃であったなら、
“もう酔われましたか?”などと、
どぎまぎしつつも躱す術、何とか講じられたのに。

 「…シチ?」
 「〜〜〜。////////」

どこもそこもが微熱に潤んで、
その手で触れてとの震えが止まらぬ。
こんな浅ましい身に、一体誰がしたのだと、
せめてと見やった御主はといや。
やはり微笑っておいでなばかりで、


  ―― もう遅い。休むとしようか?


頷いたお顔に雄々しき陰がするりとかぶさり。
そおと抱き上げられる段取り、あまりに手慣れているものだから。
面憎いが至福だとの、複雑な心持ちを噛みしめて。
自分をくるむ男の匂いへ、
逃げ込むように身を浸した白胡蝶……。




  〜Fine〜  09.11.22.


  *とて、夫婦の日 当日は、良親さんが久蔵さんを呼び出して。
   「今日くらいは二人きりにしたりぃや」などと、
   気を利かせたつもりが…

   須磨vs木曽の 臨時特別演習にまで発展してたら笑えます。

   「何で俺らがキュウ坊を攫ったことになっとぉねん。」
   「そら、呼び出したトコで横づけした車ん中から手招きして、
    中へ強引に引きずり込んだ手口といい。
    この練達なニイさんが、何も抵抗出来やんと連れ去られたて、
    それて よっぽどの相手やぞ おい…て、
    木曽の“草”のお人らに、むっちゃ誤解されたからやろな。」
   「………。(頷、頷、頷)」 *何であんたまで同意しとるか。

   ちょっとした悪ふざけが、
   どえらい抗争まがいの切っ掛けになりかねないなんて。
   恐ろしいんだか、ちっとは落ち着かんかいってことなんだか。
   どっちにしても とんでもない一族には違いないみたいです。
(苦笑)

   「あああ、また惣右衛門の爺さんに怒鳴られる〜〜〜。」
   「久蔵はその前に家ェ帰りな? 何やったら俺が送ってったろか?」
   「………。(頷、頷、頷)」
   「…前々から思っとったんやけど。
    征樹、久蔵のこと むっちゃ手懐けてぇへんか?」
   「さあなぁ、これも人徳ちゃう?」
   「???」

    おあとがよろしいようでvv


めるふぉvv
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